読んだり書いたり

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ライター白山羊ひつじのよしなしごと

「君となら」(1995) パルコ劇場 三谷幸喜脚本

 DVDで鑑賞。昭和の二階建て日本家屋の茶の間と縁側が舞台。家の表は理髪店で家の主人は店主であり、その長女の縁談が話の主題だ。
 歌舞伎にもあれば、オペラにもある「家族団欒の間」「そこで起こる娘の縁談」という王道の物語。
 前奏曲は洒落たジャズだったと思う。私は、三谷幸喜の魅力の一つはこの「西洋ドラマの現代日本置き換え」だと思っている。背後の文脈は全く違うが、父母姉妹の家族構成と姉に群がる求婚者たち、そして妹の活躍と妹の縁談、というところで、私はオペラ『アラベラ』を少しだけイメージした。いつ娘、母親、父親、求婚者たちが、それぞれのアリアを歌い始めても違和感がない。オペラはここまで複雑な嘘の交錯を表現するのに適していないし、嘘の複雑性が本作の面白味でもある以上、むやみにオペラに絡めるのは不適切そのものではある。そこはこの解釈かなりの難がある。
 ただ、『王様のレストラン』で私は三谷幸喜の「欧米文化の日本化」の巧みさが好きだと思った。そのまま欧米の模倣を行うのでなく、日本の作品として現代日本人に馴染よく翻訳していくところが好きだ。そこに日本を相対的に見つめる批評性もあると思う。そういう意味で、『王様のレストラン』が弁慶と義経を中心とした源氏再興をモチーフとしながら、同時にパリのフレンチレストランの文化を日本流に変化させ日本に定着させて店の再建を成功させているように思うのだ(ただどんなレストランになったのかは曖昧にしか描かれないのだが)。異文化の翻訳とそこに出現する批評性。そこに知的な面白さと、喜劇的な面白さも同居しているように思う。
 『君となら』のモチーフになりえそうな欧米の作品を適切に挙げられなくて自分の力不足を実感するが、三谷さんのお好きなビリー・ワイルダーの鑑賞も進めつつ、探してみたいと思う。

 

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三谷幸喜 ♯演劇